今回は、鎌倉市で見つけた訪問価値ある古い建物のお話です。その名は「湯浅物産館」。
こちらは、平成26年に耐震改修工事ならびに内装のリニューアル工事が行われました。耐震基準は、建築基準法に根拠があり、建築基準法が改正され昭和56年に新耐震基準が施行されました。耐震工事は、主にこの新耐震基準の施行よりも前に建築された建物について行われます。
木造建築の耐震工事
これまで、ビルの耐震改修工事の事例に接したことはありましたが、湯浅物産館のように間口も広く奥行きもある木造建築の耐震改修工事の事例は扱ったことがありませんでした。そうした中、工事を統括した清興建設(株)の依頼で耐震設計を担当した菅原浩太建築設計事務所の菅原浩太建築士にお話を伺うことができました。
菅原建築士は、湯浅物産館の耐震改修工事と内装のリニューアル工事を行うに当たっては、リニューアルしながらもオリジナルの良さを残すことが意識されたとおっしゃっていました。湯浅物産館では、トップライトとそれを囲う回廊、回廊に面した古いガラスの入った木製戸による開放的な作り、押し出し成形による細かい模様の入った一階の天井天板、そして広い間口と奥行きのある1階の空間。これらを残しつつ、リニューアル工事を行ったとのこと。
耐震工事を行う場合、壁を増やすことで耐震性を増すことが考えられます。ところが、これをすると、湯浅物産館の1階の広い空間が損なわれてしまう。そこで、1階には幅60センチの短い壁(袖壁)を道路と平衡方向に複数設けることで、耐震性能の向上と空間の確保を実現したのだとか。一方で、2階は回廊を中心に複数の部屋が設計されているため、1階と異なり元々壁が多く設けられていましたので、梁を合板で補強することで耐震性の向上を図ったそうです。これにより、湯浅物産館は往時の雰囲気を残した状態で、耐震補強がなされたのです。
古民家の再生・活用には、建築基準法の弾力的運用が必要
湯浅物産館のような大規模な木造建築の耐震改修は珍しいとのことで、一般財団法人日本建築防災協会主催の「平成27年度耐震改修優秀建築賞」を受賞したとのこと。古民家や歴史ある店舗建築は、現在の建築基準法には必ずしも整合しない造りをしていることがあります。そのような中で、建物の外観や雰囲気を保ちながら耐震改修工事を進めるには、いろいろな創意工夫が必要だったことは想像に難くありません。
菅原建築士の「古民家の再生・活用には、建築基準法の弾力的運用が必要」との発言は、それを表しているのだと思います。不動産に関わる弁護士として、現状に鑑みた建築基準法における矛盾と運用における是正については、今後も色々と考察していきたいと思います。
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