人とヒト・町とマチを繋ぐ〈千葉いすみプロジェクト〉

千葉県いすみ市。東京から約75分で行くことのできる外房に面した千葉の街。

以前、蛍を観に行ったら、偶然にもゲンジボタルとヘイケボタルの両方が飛び交う様子を鑑賞できた、自然豊かな街でもあります。

その街で、空き家再生に尽力している友人で一級建築士の荘司和樹さんから、「地域ネットワークを大事にしている女性がいるよ」と教えていただきました。

希少な国内産ごま油作り

お話を伺ったのは、地元の社会福祉法人「ピア宮敷」にお勤めの内野美佐さん。

いすみは、かつては献上米にもなった「いすみ米」や、全国トップクラスの水揚げ量を誇る「伊勢エビ」などをはじめ、豊かな食材があります。そのいすみでは、昔から「ゴマ」を育てていたとか。

内野さんは、この地域で昔から育てられてきた「ゴマ」をピア宮敷の利用者と一緒に育て、国内産のごま油を生産しています。そして、このごま油生産は、オーナー制度を採っています。これにより、都心の人たちに、ゴマの剪定や刈り取り、ゴマの圧搾等を通して自然に体験してもらっています。

○内野さんにゴマの栽培について伺う。国産のごま油は市場の0.1%しかないのだとか。     
○ごま油作りはオーナー制を採っており、気軽に自然を楽しめます。             

足りないところを補い合える関係作りが地域づくりでは不可欠

内野さんは、社会福祉法人に勤務する傍ら、地域の活動にも積極的に顔を出されています。

顔を出し、いろいろなお手伝いをしていく中で、「不足するモノがあっても、補い合えば良い。それが地域づくりには不可欠」という点に気づいたとおっしゃっていました。そして、むしろ田舎では、作業のマネタイズを考えるとネットワークが構築できず、成り立たないことも教えていただきました。

例えば、いすみでは「こだわり野菜」を作っている農家が多く、都内のレストランの関心を集めています。しかし、農作物に興味を持ったレストランがあっても、いすみの農家は高齢の夫婦で営んでいることが多く、農作物の収穫・仕分け・発送等の作業を全て二人でこなすのは難しいそうです。そういうとき、地域の方や、ピア宮敷の利用者が仕分けや発送を手伝い、レストランに農作物を届けているそうです。一方で、農家もピア宮敷の農作業活動やブルーベリー作りに協力して、利用者たちに力を貸しています。

お金を取る代わりに、まずは自分の労力を提供する。貨幣価値とは異なる視点を教えていただきました。

○足りないところは補い合えば良い、と話される内野さん。                 

いすみ市の魅力を発信し続ける。そこに込めた想いとは?

いすみ市は、宝島社発行の『田舎暮らしの本』の「住みたい田舎ベストランキング」で、4年連続で首都圏エリア総合1位をとった地域です。

内野さんは、そのいすみの発信にも尽力しています。

先に紹介した「こだわり野菜」を、都内のレストラン関係者に知ってもらうための「食材生産者めぐり」を提供し、いすみと都内とのパイプ作りに力を入れています。

また、ピア宮敷の利用者がいすみの牧場である高秀牧場で菜花を作っていることから、「農業体験」も行っています。「農業体験」は、企業研修として利用されることもあり、参加者で農作業に従事し、その上で「やさしい」ってなんであるかについて、ディスカッションをするそうです。参加したIT系企業の社員からは、「枠から外れたところにいないと、イメージがわかない」ことに気づけたとの感想を頂けたとのこと。

また、地域貢献に関心のある複数の企業がいすみ市周辺の廃校を利用して事業を展開していますが、そのような廃校を訪問することで、各企業の関わり方の違いを学ぶ「廃校めぐり」も提供しています。

内野さんは、生産者に「作っているモノに価値があることを気づいてもらうことが大切」と語ります。いすみには、こだわり野菜を作っている農家が多いものの、大量生産をしているところは少なく、これまでは自分たちや地元・観光客に消費してもらうために生産していたことから、その品質の高さに気づいていなかったそうです。

しかし、内野さんがいすみを発信することで、生産者にその品質の高さに気づいてもらう。そして、これが農家の自信にも繋がると言います。

地元の絆があってこその地域づくり

内野さんは、いすみの発信に尽力していますが、発信して外部から人が来ても、それに応えらなければ意味はありません。内野さんのように地元の絆を大事にしているからこそできることだと感じました。

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