房総のお寺が見つめる〈お寺とお葬式の未来形〉

海洋葬とは、何だろう?

新しい形の葬儀に取り組んでいるお寺があるとうかがい、千葉県勝浦市にある【正榮山 妙海寺】を訪問させて頂きました。いわゆる、海にお骨を収める散骨です。散骨、話に聞くことはありますが、法律上の問題もさることながら、地元の関係者の理解を得るのが難しいタイプの葬儀です。

妙海寺さんもさぞご苦労があるかと思いきや、地元との話し合いもうまくいき、海洋葬が実現できたとか。

○お話をいただいた佐々木教道ご住職                           

これからの100年を見据えて、地域を守っていく

地元の理解も得られた秘訣を伺ったところ、「お寺は、これまで小さくても強いコミュニティを作っていた。だからこそ、これからの100年を見据えて、地域を守っていく」と語った妙海寺の40代目の佐々木住職。

佐々木住職は、元々はお寺と関係がない普通の企業に就職しようと思っていたところ、妙海寺の前住職に佐々木ご住職のお父様がお世話になったご縁で、24歳で妙海寺の住職を継ぐことになったそうです。しかし、継いでみたら、人があまり来ないお寺であったという状態を目の当たりにし、ショックを受けます。

シンガーソングライターとして病院回り。ご住職のお仕事とは思えない驚き。

そのような中で、「お寺も発信していかないといけない。」と考えた佐々木ご住職は、音楽経験ゼロにもかかわらず仏教の教えを音楽で伝えるシンガーソングライターとして病院で演奏したり、仏教の教えのコントを病院等で話したりすることを皮切りに、境内を開放したヨガ教室、健康寿命を延ばすためにココロとカラダの健康をテーマ-にしたイベントを開催するなどして、地元との関係を密にしたとのこと。

当時の心境と現在のお考えを伺ったところ、「当時は「お寺を知ってもらおう」とがむしゃらでした。今は、お寺の役割である「人がよりよく生きていく」ための方法をお伝えするために、人々が関わりたくなるお寺を作りたいと思っています。」と教えてくれました。

地元との厚い信頼関係があったからこそ実現した海洋葬

今回取材した海洋葬も、佐々木ご住職の地域を大事にする行動があったからこそ実現しました。勝浦の中心的産業でありながら高齢化や跡継ぎの問題を抱えた漁業に携わる漁師・仲卸業者・小売業者が話せる場を作ったり、市場で取引されない食用が難しいシイラなどの未利用魚を産直として販売するなどの活動をとおして漁業関係者と信頼関係を作ったことが、海洋葬を行いたいと提案したとき、地元の方にも理解いただけた一つの理由かもしれないとおっしゃっていました。

■妙海寺が提案する海洋葬とは、何か。

海洋葬は、いわゆる「散骨」の一種です。しかし、佐々木ご住職は、これまでの散骨とは違う形で行うとのこと。海に散骨をすれば、故人の眠る場所が分からず、また分かっても気軽にその場所に行くことはできません。そこで、妙海寺では、散骨を行うだけではなく、気軽に故人を偲ぶことができるようにするために、地元の千葉大学のデザイン文化研究室にデザインいただいた供養塔を境内に設ける計画を進めています。

くわえて、親族がいない方でも海洋葬を利用できるようにするために、生前から相談に乗るなどの工夫もしています。

人口減少に直面する地域の中で、「お寺は小さくても強いコミュニティを作ってきた。」からこそ、地元にも理解を得られた海洋葬が実現できたことを実感しました。

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